赴任地:ホーチミン(ベトナム)│日給100円の差でワーカーが姿を消す工場【前編】
株式会社フレックスコミュニケーション代表、プロコーチの播摩です。
前回(Episode3│インド人はおしゃべり好き?【前編】)に引き続き、海外赴任者の体験談を掲載します。
Episode4は、日本のコンサルタント会社に勤務される岡本さん(31歳男性)です。
ベトナムでの生産委託、工場移転、取引先企業発掘などを目論む日系企業に対して、コンサルティング業務を行なう企業の駐在員として、26歳のときホーチミンに赴任しました。すでに帰任している岡本さんに東京でお話を伺いました。
何気ない行動が、翌日には大炎上に
私がホーチミンにいたのは、2017年までの4年間です。
わが社は、電子部品の設計・製造を行なう日本企業A社から、市場調査、視察アテンド、会社設立準備、ライセンス取得、人事採用、会計、営業、アフターフォローをワンストップで業務受託していました。私は、コンサルティング総合職という立場でA社内の転勤手配実務などの人事面、営業業務に携わりました。
中でも工場稼働後の人材採用を行ない、日本から帰国した技能実習生をはじめとして当初50人規模から4年後に200人体制までにしました。その道のりは順調ではなく試行錯誤の連続でした。今回はその話をしますね。
私が人事面を担当するようになったとき入社したワーカーは、立ち上げに興味を惹かれたから、ただ給与がよかったから、新しいオフィスだから飛び込んできたなど、さまざまなきっけかけで集まっていて、日本企業で何かを習得したいという志のある人はいませんでした。
ローカル採用のベトナム人は、仕事を早く、楽に終えたいと考え、完成品の品質には日本人ほど拘りがない人が多いです。最初は残業しないことが不思議だったのですが、それはすぐに、彼らは生活を壊さない程度に仕事をしたいと願っているからだということが分かりました。
生活とは、子供の送り迎えや、家族、恋人との時間の確保、アフター5の習い事などです。
午後5時には基本的に守衛さんも仕事を終え、ビルの中には残れません。そういったことは徹底的に守られます。契約社会ですから定時に帰宅は当然なのですが、当時「残業は当たり前」と考えていた私には、飲み込めないものがありました。
ホーチミンの工業団地に、私が勤務する工場がありました。
口には出さないものの「日本式が正解に間違いない」と先進国である日本の生産技術を疑ったことはありませんでした。ある日、社内があまりにも散らかっていたので「美化を推進したい」と思い立ちました。まずはビフォー・アフターの事例収集の目的で、廊下やフロントなどの共有部分を気軽に写真撮影しました。ところが、翌日からローカルスタッフは大炎上です。
理由を探っていくと「プライドを傷つけられた」、「ローカル社員を馬鹿にしている」、「給与査定につかう気か」など私の行動は予想もしていないほどネガティブに捉えられていました。スタッフは駐在員の言動をよく見ていますし、不公平感をもつと心を閉ざすのです。スタートの人間関係は非常に大切なことを学んだ経験でした。
その後、日本基準を強要しないこと、日本式を持ち込む場合は、事前に通告し共有することを戒めにしました。何の為に、いつ、どうやって、どのようにしていくか一つ一つ言葉を尽くせば理解してくれるのです。そして、ローカルスタッフを味方につけると思わぬ力を発揮してくれることも分かりました。
キャリア形成よりも賃金
立ち上げから10か月、受注案件が軌道に乗り、一気に採用したスタッフが100人になったところで、直面したのが離職です。A社は工業団地に早い時期に入りました。しかし数カ月遅れで日本や韓国、シンガポール、中国の企業が次々と進出したのです。
このころローカルスタッフからは「日本人はめんどくさい」という話も多く聞きました。日本式カイゼン、日本ブランド、日本品質などと日々言われ、そこにリスペクトはあるのですが、いざ自分の作業で要求されると「めんどくさい」となります。社員同士の横の繋がりが密接なので「最近できた工場はラクで待遇がいい」と分かると、時給10円程度の差でもなだれ込んでいきます。
ベトナム人はお金に対して貪欲です。笑顔でコミュニケーションを取れていると感じでいたワーカーでも、賃金となれば話は別です。その企業でゆくゆくどのようなキャリア形成ができるかよりも優先順位はたった今の賃金なのです。これは、日本の企業が進出後、必ず直面する問題の一つと言えると思います。ある日、私が現地で面接し、採用した人が、数十人単位で退職してしまったのです。
特に痛かったのが工程管理を行う管理職の引き抜きです。
日本語と、日本式といわれるような5S、品質管理、納期などをマネジメントできる人材数人が、急に辞めるというのです。日本人とベトナム人スタッフの間に立って管理する中間管理職のベトナム人は非常に優秀です。その多くは日本での技能実習を経験したベトナム人です。彼らは、ライン工程でできあがった溶接部分も厳しくチェックする確かな目をもっています。そのなかでも細部まで品質に拘り、交通事情まで考慮して納期を設定するという、工程と人のマネジメントをできる管理職は希少価値なのです。
A社では彼らを引きとめるために、報酬をベトナム企業で働くよりも月収2,000円から5,000円程度高額に設定していました。辞職を通告してきたスタッフに話を聴くと「あちらの工場の賃金が高いから」と、月に数千円の上乗せで心が動いているのです。これは工場にとっては大打撃で、日本の社長が慌ててベトナムに飛んできました。しかし、引き留めようとしても時すでに遅く、気持ちも新しい会社に切り替わっていました。日本人の帰属意識、組織コミットメントを当たり前と考えていた私は、愕然としました。
そして、もっとひやひやする時期が旧正月あけです。
旧正月は、ベトナムでは年に1度の大型連休です。工場のラインが止まり、スタッフは田舎に帰ります。インフラがまだまだ整っていないベトナムで、バイクで片道5時間かけて実家に戻ったり、バスで8時間かけて帰省したりするスタッフが大勢います。
10日から2週間の休みに親戚中が集まると、都市部での仕事の処遇が話題になります。それが引きがねで旧正月後は転職市場が大変活発になり、人材が大移動します。採用担当にとってはもっとも頭の痛い時期なのです。最初の年、私は大げさな笑い話だと思っていましたが、現実にかなり数のスタッフが戻ってきませんでした。翌年からは、旧正月休み前に「戻ってきてね」と本気で言って送り出しました。
しかし、ただ言うのではなく彼らが「戻ってきたくなる職場」を創ることが大切だと気がついたのです。
ベトナム人は、身内のつながりが強く、排他的な側面もあります。従って、転職にあたっても、転職先の既存従業員にスムーズに溶け込めるかどうかを内心心配しているのです。そんな彼らに離職してほしくないのなら、コミュニケーションを濃密に行ない彼らの要望を理解する姿勢をもつことだと思いました。そうやって社内の風通しを良くし、彼らが望む家族的な企業風土を創っていくことを目標に据えたのです。
そして、私とベトナム人スタッフの3人で定着率を上げるプロジェクトを立ち上げたのです(リンク:後編へ続く)。

海外赴任者対象コーチングとは?
海外赴任が決まったら、まず何を行ないますか?
各種手続き、子供の教育機関の手配、自分の健康管理、赴任地の文化の勉強などに時間をとられている間に、あっという間に出発日になってしまうことは多いのです。そんな赴任者は「出発日になっても実感がない」「向こうに行ってから成果を上げられるか心配」などと言います。
それは
「何を求められて赴任するのか」
「本社とのコミュニケーションはどうしたらいいのか」
「帰任までにどういう成果をあげたらいいのか」
など業務上の不明確な点を抱えたまま旅立ってしまうことに原因があります。
生き馬の目を抜く海外市場で、「日本人は、着任後3ヶ月以上仕事をしない。あいさつ回りで無為に時間を費やす」という評価があります。単なる交代要員として気楽に赴任するために、海外市場の中で競合に遅れをとっているのです。
同様に、数年間、目標なく駐在してきたために、「帰任時」にウツに見舞われている人も増えています。
在任中目立った成果を出せず、日本国内の事情に疎くなっていることが原因の1つです。
これらの問題を解消し、海外在任中に成果を出し、帰任後も充実した業務を継続するために
プロコーチがサポートをするのが「海外赴任者対象コーチング」です。
※上記画像をクリックすると詳細な内容がご覧いただけます
【こちらのコンテンツもご覧ください】
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