赴任地:アーメダバード(インド)│インド人はおしゃべり好き?【後編】
株式会社フレックスコミュニケーション代表、プロコーチの播摩です。
前回(インド人はおしゃべり好き?【前編】)に続き、後編を掲載します。
Episode3は、日本の大手メーカーで働く浅沼さん、40歳男性です。
赴任のミッションは明確で、新規に立ち上げたアメーダバードの支社を拠点として、インド国内で、製品をPRし拡販することでした。すでに帰任している浅沼さんと東京で面談しました。
インド人はなぜ真面目に話を聴かないのか
訪問予定は逐次本社に連絡していて、日本の上司から毎回成果の問合せが来ました。いい報告ができなくて、そこでもまたへこみました。本社の技術部門から赴任しているAさんは、私とは違って終始気楽そうで、数字のプレッシャーがないことが羨ましかったです。
言いたいことがどうやったらインド人に伝わるのか、こんなにいい製品をどうアピールすればいいのか、試行錯誤しても答が出ず悶々としていたある日、出張先のデリーで日本の銀行の駐在員Bさんと食事をしたのです。その人はAさんの古い友人で、インド駐在歴5年というベテランでした。
Aさんが「インド人は、おしゃべり好きですねぇ」と軽く話を振ると、Bさんは「インド人は日本人とはメンタリティが違います。いい意味で遠慮がないし、他人の話を一方的に聴かされることはまったく好きではありません」と明快に答えました。
Bさんはその背景を続けます。
「しゃべることは、彼らにとっては生き残ることなのです。国が広くて、言語も宗教もさまざま。まぁ、だから自国民同士でも英語で話さざるを得ないんですがね。こういった多様性のある国で、価値観の異なる相手に自分の言いたいことを確実に伝えるには、おとなしくしていてはダメなのです。それだけが理由ではないでしょうけど、とにかくインド人はその場で思いついたことをびっくりするほどよくしゃべりますし、すぐにフレンドリーに打ち解けあいます。日本人は、まずそこに面くらいます」。
自社にプラスになりそうなビジネスのセールスなのに、途中口を挟むなどということは、日本の常識では考えられないマナー違反だと思っていた私は、Bさんのこの話で目からうろこが落ち、プレゼンのやり方を根底から変えなければならないと瞬時に理解しました。この常識の違いに早く気づいて本当に良かったと思いました。
やんわりのお断りはない
そして、最後にこんなアドバイスをくれました。
「I'll think about it(まあ、考えておきます)のようなことを言われませんでしたか?日本人は、これはやんわり断られた、と捉えて深追いしません。しかし、インド人がそう言ったら、それはそのままの意味です」。
私はまたハッとしました。最初に訪問した先でそのように言われたのです。
Bさんとの食事を終えてから、Aさんが「日本人は、インド人には厳格な国民と映るらしいよ。だからボクはできるだけ和やかにしているんだ」と言いました。Aさんは余裕のない私のプレゼンの緩和剤の役割を果たしそうとしているのだと分かりました。
私は、そのあとのプレゼンの作戦を変えました。
商品よりも、まずは自分を売り込んで親しみやすいと感じてもらう。質問には、内容を問わず丁寧に回答する。プレゼンの予定時間を先に伝える。商品内容をすべて伝えきれなかったときのために冊子を手渡し、質問があれば問い合わせてほしいと依頼する。
次の会社では、肩の力を抜いて、聴衆とおしゃべりをするといった意識で臨みました。なんだか仕事をしていないような感覚に襲われましたが、プレゼンは格段に盛り上がり、相手も親しみをもってくれたことが伝わりました。
そして支店に帰ると、製品に関する質問がメールで送られていたのです。丁寧に回答することで信頼関係が生まれました。4件目で、やっと最初の受注に繋がったのです。本当にほっとしましたし、この国でやっていけそうな勇気が湧きました。
初めに訪問し「I'll think about it(まあ考えておきます)」と言った会社にも連絡すると、「I was waiting for your contact(いつ連絡が来るのかと思っていたよ)」と言われました。言葉の通り、本当に検討していたのです。インド人は率直で、回りくどい表現をしないのです。ですから、例えば「近くにいらしたら我が家にお寄りください」なんて誘ったら、本当に来ちゃいます。
日本の国内で行なってきたビジネスのスキーム、コミュニケーション、マナー、常識、これら日本人流はインドでは誤解のもとになるかもしれません。短期間の赴任でしたが、1年ほどの間に多様性のるつぼであるインドで、日本との常識の違いを「いい悪い」で論じるのは愚かなことであるとつくづく感じました。
アメーダバードは今も後輩が赴任して当社の製品を売っています。インドはこれからも伸びるでしょうね。私自身の成長の機会となるいい海外赴任でしたよ。

海外赴任者コーチングコーディネーター播摩からひとこと
ハーバード大学のデイビット・マクレランド教授は、外交官の仕事の成功に必要な能力として
・異文化である現地国にあっても、その国の人の感情を理解する感受性があること
・嫌な相手でも尊重し、意見に耳を傾けること
・人脈をつくるのがうまいこと
を挙げています。そして、いわゆる「知能指数の高さ」と「対人スキルの高さ」は、1:2の比率で、対人スキルのほうがより求められるという調査結果を発表しています。
グローバルで仕事をするということは、戦うことではなく、まさに「その国の人の立場になって自分を変えられること」なのですね。
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