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Episode4│日給100円の差でワーカーが姿を消す工場【後編】

2019.09.01

赴任地:ホーチミン(ベトナム)│日給100円の差でワーカーが姿を消す工場【後編】

株式会社フレックスコミュニケーション代表、プロコーチの播摩です。

前回(Episode4│日給100円の差でワーカーが姿を消す工場【前編】)に引き続き、後編の体験談を掲載します。

Episode4は、日本のコンサルタント会社に勤務される岡本さん(31歳男性)です。

ベトナムでの生産委託、工場移転、取引先企業発掘などを目論む日系企業に対して、コンサルティング業務を行なう企業の駐在員として、26歳のときホーチミンに赴任しました。すでに帰任している岡本さんに東京でお話を伺いました。

驚くほどベタな施策が求められていた

私とベトナム人スタッフの3人で、離職防止のプロジェクトを始めました。

まずはベトナムでコンサルタントを行なうBさんから話を聴きました。彼はベトナム人ですが、11年間の日本在住経験をもち両国の価値観の違いを熟知している人でした。離職防止の第一条件はやはり『お金』です。そして、彼のアドバイスによって、次に重視すべきは福利厚生だということが分かったのです。

すぐにとりかかったのが社員旅行の実施でした。

私は半信半疑でしたが、ベトナムの企業が行なう社員旅行は参加率が高く、家族まで参加可能としていて、皆楽しみにしていると、ともにプロジェクトを進めるベトナム人スタッフが熱心に言いました。初年度は、バスを貸し切り海辺のリゾート地へ向かいました。舗装されていない道路を8時間ドライブしてやっと目的地に着くのです。ベトナム人は、移動中、帽子Tシャツなど全員がお揃いのものを身に着けて道中を楽しむのです。

到着すると、家族単位に別れたりはしません。「参加者みんなで行動する」が暗黙のルールです。社員の子供たちの風船割リレー、尻相撲などのゲームに全員が異常な盛り上がりを見せます。日本人のように冷めていないというか、まさに社員旅行で心を一つにするのです。昭和の時代によくあった農村の小学校の運動会のような感じです。

実は、旅行中の彼らを見て最初は違和感しかありませんでした。しかし、次の勤務日から表情が違うのです。プライベートな話題を選ぶので、おのずと和やかな雰囲気になりました。そこから作業中の会話にも団結感のようなものが生まれたのです。

私はこれだと思いました。

家族を大切にする彼らを、会社が家族のように大切にしているということをまずはしっかり伝えていこうと思ったのです。翌年は、滞在先のホテルのグレードを上げ、悪路での長時間移動の対策として高級仕様のバスを手配しました。ワーカーの士気はそういうことであがります。彼らにとって、不公平に扱われていない、という感覚はとても大切なのです。社長が、ベトナム進出当初から企業文化を、現地にカテゴライズして構築するという信念をもっていたことと、支出をスピーディーに許可してくれたことも成果につながったと言えます。

好評とはいえ、社員旅行は年一回です。そこで日々の福利厚生として目をつけたのが昼食のサービスです。

工業団地では昼食の時間になると入口付近に移動販売の店がずらーっと並びます。工場ワーカーはそこで弁当を買うか、自宅からもってくるか、工場内の食堂を利用します。

A社の社員食堂では、日本食を取り入れることにしました。すべてのメニューを日本食にはできませんが、日本式で炊いたご飯や、和食テイストのおかずをメニューに入れました。この活動は、「ホーチミンでステータスとなっている日本食を工場で食べられる」という口コミとなって、工業団地内にあっという間に広がりました。それから定着率が上がり始めたのです。

福利厚生は業務にもいい影響

次に着目したのがサッカーです。

工場ワーカーのほとんどは男性です。都心から離れ、娯楽の少ない工業団地でエネルギーがありあまっている若者たちは、定時であがるとすぐに、仲間とフットサルに興じていました。

工業団地に広大な土地があることで、A社の経営陣はハッとひらめいたようです。工場敷地内でフットサルができれば、定着率が上がるのではないか!と。そのようなことを行なっている会社は他のどこにもなかったのですが、A社のチャレンジ的な社風が後押しし、すぐに広大な構内の一部にフットサルコートが設置されました。それまで使用料を払ってつかっていたフットサルコートが職場にできたのですから、ワーカーは大喜びです。たちまち工場内にチームがいくつもでき、就労後のフットサルゲームが日課になりました。さらに我々のプロジェクトでは、社長杯を賭けた大会を実施しました。この取り組みは、今思い出しても驚くほど盛り上がり、そして別の効果も生みだしました。

ローカルスタッフたちは、就労中も互いを尊重しあうようになり、仲間に賞賛の声を掛けるようになったのです。生産ラインでは、目に見えてチームワークが向上していきました。

A社は工業団地内で人気の企業として採用効率が上昇しました。

「工場にフットサル場を従業員のためにつくってしまう企業」、「これからも何か面白いことが起きるのではないか」というわくわく感が人気につながったと思います。ベトナムでは、通常20%の離職率といわれていますが、製造業では40%ともいわれています。そんななかA社の離職率は、福利厚生のプロジェクト発足後、10%以下まで下がりました。

社員旅行で福利厚生と聞いたとき、私は正直、そんなベタな取り組みでは定着率は上らないのではないか、経費の支出だけに終わるのではないかと心配していました。しかしそれは杞憂でした。日本の常識、日本人の価値観は、世界標準ではありません。それを自覚した1年目以降からはベトナムでの新しい発見に面白みを感じました。

今、色眼鏡を外し、世界を捉えられる私の成長はホーチミンの体験でつくられたのだと思っています。

グローバル化を目論む日系企業、日本人は苦戦しています。まずは日本人との違いを自覚すること、そして現地のワーカーの習慣や価値観を許容することが、ともにいい仕事をするスタートラインだと感じます。

フレックスコミュニケーション 

海外赴任者コーチングコーディネーター播摩からひとこと

駐在員は、現地社員の労働環境、雇用契約、インフラ環境や国のルールをまず理解しなければなりませんね。仕事の仕方について言えば、現地ワーカーにとって日本のほうが特殊なのでしょう。

「先進国が途上国にきてあげた」というバイアスがあるとしたら、赴任後思わぬ落とし穴がありそうです。

岡本さんの「日本の市場に未来がなく、日本から来させていただきビジネスをさせていただくという認識をもって、謙虚に仕事に臨むようにしていました」という言葉が、すべてを象徴していると思いました。

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