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増加する在宅勤務に対応するための包括的な報酬戦略の見直し

2020.08.17

スティーブ・ブリンク著│増加する在宅勤務に対応するための包括的な報酬戦略の見直し

今回のパンデミックが発生する前、GlobalWorkplaceAnalytics.comの2018年調査結果によると、米国において、勤務時間の50%以上をリモートで行っていた人は僅か 3.6%にしか過ぎませんでした。

写真①

おなじ調査の中で、従業員の56%はリモートで実施可能な仕事をしていると言及しています。現在では隔離政策やソーシャルディスタンスといった措置が実施されているため、特定の業界(サービス業や製造業など)を除いてほとんどの実務が在宅で行われています。

新型コロナウィルスによってリモート勤務に関する社会的実験を強いられることになったわけですが、多くの場合においてその目的を達成しています。一方で、これに伴い在宅勤務(WFH=Work-From- Home の略)に関する人事規程上の課題が生まれ、自分が住みたい場所で働くこと/職場の近くに住むことで、どちらか良いのだろうか、という問題が投げ掛けられることになりました。 近年、勤務環境を個々人に割り当てるべきか、共同所有するべきか、と言う点が取り沙汰されるようになってきましたが、今回の状況によりこの話題が大きな注目を浴びることになりました。

仮に、オフィスへの距離と通勤のし易さが問題ではなくなったとしたら、どのような要因が職場と居住地を選ぶ上で重要になるのでしょうか?家族に近い場所ですか、それとも自分の趣味にとって都合の良い場所ですか?答えが何であれ、ここで実際に議論の対象としているのは包括的な報酬体系における「場所の役割」です。

包括的報酬体系の算出方式の見直し

包括的な報酬体系は、通常、報酬や福利厚生、そして最近ではキャリア開発と表彰制度に力点が置かれます。今回のリモート勤務の成功により、企業は実際に働く場所も重要な考慮事項であることを認識し始めており、包括的報酬体系における他の要素と同じくらい重視される可能性を秘めています。これは重要な前進です。なぜならば企業が人材戦略を推進するにあたり、別の強力な新しい手段を持つことを意味するからです。その点を認識し、社員の価値基準に立ち、働く場所を慎重に検討する企業は、以下のような大きな利益を得ることができるでしょう。

■人材にとっての魅力

多くの場合、自社が必要とする/欲する人材は、そのすべてを自社が事業運営する場所で調達することが出来ないものです。その結果、自社が事業運営する場所で候補者を採用するか、適した人材を任地に移動(転勤)させる事になります。どちらもコストのかかる解決策です。企業は効果的なリモート勤務を活用することで、新しいタイプの人材(現在住んでいる場所を好む人材、もしくはリモート環境を好む人材)にとっての魅力を創生することが出来るようになります。言い換えるなら、テキサス州オースティンを離れたくなかったソフト開発者の基幹人材に、今すぐ雇用交渉することが可能になります。

■人材を引き留める

すべての企業は、個人的な事情で人材を失っています。例えば、基幹人材の配偶者が他の場所へ好条件で転職した、または高齢の親族を世話するために引っ越す必要があった、などのケースがあります。このような社員が保持している知識の量は驚くほど大量であり、企業は、後任者探しと後任者への訓練に対して、かなりの時間と費用を費やしています。企業は、この分散型業務に投資することによって、人材と組織知識を確保し、混乱を最小限に抑え、コストと時間を節約出来るようになります。また、社員が自分の望む場所に住むことが出来れば、社員の満足度が高まり、自分のライフスタイルを応援する企業に留まりたい、と考えるかもしれません。

■人材を強化する

今日では、ビジネスのチームワークにおけるDiversity & Inclusionのメリットを誰もが知っています。ダイバーシティ(多様性)は多くのことを意味しますが、働く場所も、そのうちのひとつに定義するのではないかと思います。San Antonio(テキサス州)に住む人の世界の見方は、San Francisco(カリフォルニア州)に住む人のそれとは随分違いますが、それは良いことなのです。ダ イバーシティ(多様性)は、ビジネスにおける創造性とパフォーマンスを高めるためのアイデアや異なる視点をもたらしてくれます。働く場所が、他の多様性やその他の取り組みに取って代わるものでは ありませんが、企業のD&I(ダイバーシティ&インクルージョン=多様性と格差の無い)戦略を強化する上で、その役割を果たすことが出来ます。

これらを実行する企業においては、次のような追加のメリット提供が出来るでしょう。

•通勤時間の短縮

•交通費の削減

•日常コストの削減(通勤時の洋服代、外食費用)

•生産性の向上

•生活の質の向上

•家族に対するケアの手配のし易さ

•自分の好みのスタイル/時間で働くための柔軟性の増加

働く場所を問わない勤務形態(Work From Anywhere)

この現象をWork From Anywhere または略してWFAと呼びます。

このリモート勤務を促進するために必要なツールやテクノロジーについては、非常に多くの議論がなされていますが、この WFA 戦略に関する報酬面については、ほとんど議論されていません。

新型コロナウィルスは、WFAをモビリティ業界リーダーにとっての最優先事項に急上昇させました。ここ直近の数か月間でこのトピックに関する会話や記事は急激に増加しました。例えばフェイスブックは、今後5~10 年の間に、同社では社員 48,000 人の50%が遠隔地で働くことを予測していると発表しました。フェイスブックはリモート勤務を、本社地であるベイエリアを離れたいと思案中の人材の引き留め、また既にリモート勤務をしていて、他に引越したくないと望んでいる人材を引き留める方法の一つとして捉えています。

これは、フェイスブックの経営哲学の大きな変化です。これまでフェイスブックでは、オフィスから 10 マイル以内に住んでいる社員に対して、$10,000のボーナスを付与していました。同社の発表ほど知られてはいませんが、他の多くの企業(IT 業界か否かに関わらず)も、今後リモート勤務者の構成比を増やすという計画を発表しています。

れらの戦略には注視すべき事項があります。フェイスブックはこのWFA の動きに賛同していますが、給与は当該社員が居住する場所での生計費に基づいて調整されるとしています。この給与の現地適合化対応を実現する方法は無数にあります。以下、WFA型勤務者の給与設定に採用可能なさまざまな戦略についてご紹介します。

生計費と人件費の理解

まず始めに、念のため申し上げておきますが、人件費と生計費には違いがあります。

生計費は、ある特定の場所で生活するためのコストであり、商品やサービスの価格、家賃、税率に基づいて算出されます。一方、人件費は通常、場所と職責に応じて設定される報酬です。それは業界や経験年数、もしくは勤続年数や職責などの基準に基づいて算出されます。言わば需要と供給に基づき長年に渡り決定されてきた報酬アプローチです。しかしWFAの台頭に伴い、その方程式が覆され始めています。人件費に関して、労働の需要と供給は、歴史的に限られた市場の中で扱われてきました。しかし、世界中で人材を獲得・雇用出来るようになった今日においては、労働市場はグローバル規模になり、非常に異なる需給方程式を構成することになります。

これに伴い、本来ならば人件費を決定するための新しいメカニズムが必要になるでしょう(つまり、グローバルな需給またはスキルを基準に算出した国際的な給与)。しかし、それは(まだ)存在していません。

過渡期的な措置として、現在の報酬体系に準じて WFA に対処する方法として、生計費に着目している企業もあります。

写真②

上記の例では、アトランタで年収10万ドルを基準に「生計費(物価)」の観点に加えて、家賃、税率の違いを反映した場合、各地の給与がどうなるかを示しています。つまり、その金額でアトランタ で購入・消費したものと同じ水準のもの(=購買力)を手に入れられます。生計費の変動が、この購買力維持のために必要とされる給与に大きな違いをもたらす可能性があることがわかります。

写真③

給与レベルの設定

各社における包括的な報酬に対する哲学・ポリシーが、リモート勤務者に支払うべき最適な方法をそれぞれ定義付けます。すでに述べたように、かつて給与は、通常オフィス(=勤務地)の場所に基づいて定められていました。働く場所を問わない勤務形態(WFA)の増加に伴い、給与を算出するもととなるオフィスの場所(=勤務地)の概念がなくなります。

この新しい環境では、「業務」が従業員に合わせるのであり、その逆ではありません。したがって、戦略的に検討された報酬に対する哲学が重要になります。その哲学があるからこそ、オフィス勤務社員向けの給与とWFA社員向け給与を明確にする事が出来るのです。他の従業員と比較し、給与の平等性と公平性の確保に役立つため、給与設定プロセスを確立することが不可欠です。

以下に示すのは、WFA勤務者の報酬レベルを設定するための、主な4つの方法です。繰り返しになりますが、適切な方法は、各社のWFAへの包括的な報酬に対する哲学と組織の取り組みによって決定されます。

(1)すべての報酬を本社水準で算出する

この方法では、オフィス勤務かリモート勤務かにかかわらず、本社所在地と各従業員の役割に基づいて給与が決められます。

リモート勤務者が生計費の安い場所にいる場合、本社での人件費水準と居住地の生計費の違いにより、「思いがけない、棚ぼた的な収入」を得る可能性、つまり購買力が上がる可能性があります。逆に、リモート勤務者が本社より生計費の高い場所に住んでいる場合、購買力が低下する可能性があります。

基本的な考え方は、与えられた業務そのものが企業にとって特定の価値を持つので、その役割がどの場所で実施されるかは問題ではないということです。

この戦略を採用している企業は、その場所固有の給与相場ではなく、その職位に対して全国均一の給与相場を支払うべきでしょう。これは、複数のオフィスがある場合や一つの主要なオフィスが特定されない場合に適切でしょう。

(2)該当場所の現在の市場相場で給与を支払う

この方法では、リモート勤務者の居住地における適正な給与相場の評価を行います。企業はリモート勤務者の居住地にある他の企業が同様の職位に支払う給与相場に基づいて、その職位に給与を支払います(つまり、その場所でのその役割に対する市場競争力のある給与を支払います)。

特定の場所における市場相場の賃金を把握するためには、相当な時間と調査費用が発生します。企業は、可能な限り最高の市場情報を入手すべく、報酬に関する調査データを利用する必要があります。残念ながら、市場相場データが存在しない、もしくは不十分な場所があるかもしれません。

(3)地理的なカテゴリーによる給与設定

前の2つは極端な方法です。1つ目はフリーサイズ的アプローチであり、2つ目はリモート勤務者毎に異なるように設定された個別給与です。そしてこの3番目の方法は、給与にいくつかの違いをつけるための中間的アプローチですが、すべての個人と場所を個別計算するわけではありません。これは、さまざまな勤務地を抱える大企業では、既に人気のある方法です。

この方法では、企業は本社およびいくつかの特定場所向けの給与体系を定義します。それぞれ競争力のある給与相場に基づいて、地理的に異なる給与カテゴリーを設定します。いくつでも好きなだけ設定出来ます。上記(2)の例では、リモート勤務者の数と同じくらいの数の地理的なカテゴリーが生まれることになりますが、この場合、一般的には勤務地の数に応じて3~10の異なるカテゴリーを設定します。

たとえば、5つの異なる地域カテゴリー(AからE)があるとします。カテゴリーAは賃金の高い場所用、カテゴリーEは賃金の低い場所用です。カテゴリーCを、基準値(100%)とします。カテゴリーAとカテゴリーBは、より高く設定されます(それぞれ 110%と 105%)。カテゴリーDとカテゴリーEは、それぞれ95%と90%です。これらは、理解し易いように例として設定したもので、実際の数値ではありません。

各リモート勤務者の場所は、これら5つのサンプルカテゴリーのいずれかに組み込まれます。この方法の基本的な考え方はあくまでも各カテゴリーの地域的な給与市場相場をベースにしており、各リモート勤務者に個別の給与体系を設定する方法と比較すると、簡素化された給与体系になります。この3番目の方法は、時系列的なメンテナンスという点で2番目の方法よりも簡単であり、また1番目の方法と比較すると、居住場所によって給与に一定の違いを付けられます。

結果として、個々人が居住する市場相場に基づいて競争力のある給与を評価・設定する代わりに、生計費情報を使用して地理的な区分を設定することになります。地域的に給与相場が区分されるという点においてこの2つのアプローチは似ていますが、この方法では生計費データを使用してこれらのカテゴリー(この例ではカテゴリーAからカテゴリーE)を設定します。

この生計費データの活用は非常に容易であり、複雑な給与支払いを大幅に簡素化します(つまり、役割、経験、またはその他のファクターに関する市場の給与相場を考慮する必要がなくなります)。この方法にすると、リモート勤務者が給与における生計費や家賃などの違いを「実感」出来るため、勤務者に対する透明性も向上します。給与設定を市場相場に基づいて行う場合、属性や役割、参照にしたサンプルの数など、通常では従業員に開示されないと思われる様々な要因があるため、その透明性が低下します。

このコストベースの設定方法は、理論武装がし易く、コミュニケーションが容易、かつ従業員にとって理解が容易なため、多くの企業で採用されています。

(4)生計費に基づいて給与を支払う

次の方法はより新しい概念であり、ますます広がっていくリモート勤務と最も調和するかもしれません。この方法では、企業は本社所在地に基づいて競争力のある給与を設定し、次に生計費手法を用いて各従業員の居住地/勤務地に基づいて報酬を上げ下げする調整を行います。

この方法は、前述(3)の方法に似ていますが、(方法(2)で確認したような)更に個別状況にもある程度対応することができます。しかし、(2)の方法とは異なり、生計費データは各場所の競争力のある給与データよりも遥かに容易に入手が可能であり、従業員がより直感的かつ容易に理解が出来ます。その結果、この方法はメンテナンスが遥かに容易で、かつ当該従業員が選んだ居住場所に基づいて各位の報酬を最適化します。本社で競争的報酬を評価し、それに生計費データを加味してリモート勤務者に伝える事によって、企業は全従業員が働く場所にかかわらず、同等水準の購買力を享受出来るようにする事が可能になります。これは、企業全体で社内の公平性を維持するためには優れた方法です。

この方法にはバリエーションがあり、一部の企業において模索されている一種の「ゲイン・シェアリング」の考え方に関し、従業員と会社の両方にとって有益な場合があります。このシナリオでは、企業は本社所在地で設定した給与とリモート勤務者の居住地における生計費で算出した給与の間の差異(利益)を分配します。

たとえば、本社所在地ベースの給与が$ 100,000に設定され、リモート勤務者の生計費反映後の調整給与が$ 90,000である場合、「ゲインシェアリング」による給与は$ 95,000になります($ 100,000と$ 90,000 の差を分割)。この場合、会社は$ 5,000の削減により、継続的に給与を節約できます。また、リモート勤務者は居住地の設定給与より多くの購買力を持つことで、利益を得る事になります。 これでWin-Win の関係構築が出来ます。

報酬の個別対応

最後に、WFA/リモート勤務に関しては継続的なトレンドがあると考えています。包括的な報酬体系の一部として認識されるリモート勤務は、報酬の個別対応化という人事戦略のトレンドにつながっています。これまで個別(多様性)対応は、カフェテリアスタイルの福利厚生プログラムとキャリアパスの複数化、という形で発展してきました。WFAは、働く人の個人的な好みと会社に認知された価値を調整し、より幸せで生産的な従業員を生み出すための、もう1つの方法なのです。

働く場所は、常に報酬を決める際の重要な要素でした。現在、WFAによって従業員は自分の勤務地を選択できるようになり、これにより、会社に認知される価値がさらに高まり、包括的な報酬体系において他の領域との交流が円滑になります。

企業はこの傾向を認識し、報酬に関する明確な哲学と人事戦略に合致する、リモート勤務者向けの給与設定方法を開発する必要があります。

筆者紹介

写真④




スティーブ・ブリンク氏は AIRINC の CEO です。
同社は、企業の海外赴任戦略を支援するデータやシステム、コンサルティングを提供する会社です。

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