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密着レポート 日本 杉原 隆 海外赴任 神山 晃男

【座談会】海外赴任前にしっかり準備したい保険と介護

2018.09.04

海外赴任をきっかけに、保険と介護に向き合う

海外赴任までの準備期間は、とても慌ただしく過ぎていきます。仕事の引き継ぎに始まり、引越しの荷造り、子どもの学校や各種手続き...。やるべきことは山積みで、家族の生命保険の見直しや、日本に残る親のことは、ついつい後回しになりがちです。しかし、後悔しないようにしっかり準備しておきたい。そこで、生命保険代理店 である「株式会社ガウディ」の代表取締役社長・杉原隆氏と、離れて暮らす親御さんの様子をご家族に伝える独自のコミュニケーションサービスを展開する「株式会社こころみ」の代表取締役社長・神山晃男氏に、海外赴任前にしておくべきポイントを伺いました(聞き手:編集部)。

健康体でなければ無条件で保険に入れない

海外赴任前は忙しく、「生命保険のことまで頭が回らない」という方が多いと思います。特に注意すべきことはありますか。

杉原氏:

 海外赴任といっても、ほとんどの方はいずれ日本へ戻ってこられます。帰国後のことも踏まえて、赴任前に対策を立てておくことが重要です。私は保険業に就く前は商社マンとして、オーストラリアに3年ほど駐在した経験があります。オージービーフの対日・対米輸出業務を担当し、10人のスタッフをまとめながら年間180億円規模のビジネスを動かしていました。仕事はやりがいも大きく、充実していたのですが、駐在員は激務となるのが常。当時30歳そこそこの私にはストレスも大きく、潰瘍性大腸炎を患って現地で治療を受けたのです。

 その後、日本に帰ってきて保障を増やそうと、新しく生命保険を申し込みました。すると、オーストラリアでの病歴を理由に、保険会社から加入を拒否されてしまったのです。まさか、自分が保険に加入できないとは、まったく想像もしていませんでした。生命保険の加入時には、健康状態や病歴を告知する義務があり、内容によっては保険料の割り増しや、その病気の部分は保障対象から5年間は外す、などの条件を付けられることがあります。これを「特別条件」といいます。それでも入れればいいのですが、最悪の場合には加入を拒否されることさえあるのです。駐在員は激務になることが多いうえに、食生活をはじめとする生活環境が日本とは大きく変わります。とくに今後、日本の企業が海外展開で力を入れるのは、アジアを中心にした発展途上国。日本での暮らしと比較して体調を崩すリスクは格段に高くなります。

 保険は「いつでも、誰でも入れる」と思っていたら、大きな間違いです。健康でなければ無条件では入れません。若くて健康なうちに保険に加入すれば保険料も安く済みます。海外赴任の前に、自分やご家族の生命保険を見直して、今だけでなく、将来に向けて十分な保障が確保できているか、よく検討する必要があります。

「地域包括支援センター」の連絡先を必ず調べておく

日本に残る親御さんについて、どんな対策が必要でしょうか。

神山氏:

 海外へ赴任される方が30代前半の場合はご両親もお若く、「親は元気なので心配はしていない」とお考えの方も多いでしょう。ただ、介護が厄介なのは「いつ始まるのか」、「いつまで続くのか分からないこと」です。理想的には介護保険制度について勉強して万全の態勢を取れれば良いのですが、赴任前の慌ただしい中にあっては難しい。重要なことは、何か起きた時に、この人に相談するとか、ここに連絡を取る、など具体的に最初に取る手段を決めておくことです。1つだけ覚えておいてほしいのは、各自治体にある「地域包括支援センター」。介護相談の最初の窓口になる組織です。万が一の時には、ここに連絡すれば、必要な介護サービスや日常生活支援などの相談にのってもらえます。

 支援センターは各自治体の地域ごとにいくつもありますから、市役所に電話をして、ご両親の住所を伝えれば、どこのセンターが担当なのか分かります。この連絡先だけは、必ず調べておくべきです。 もし親御さんの健康に少しでも不安がある場合には、前もって担当の支援センターに連絡して、ご両親のことを説明しておけば、いざという時にスムーズに対応してもらえます。

2018年の大変革を前に確実な保険を手に入れる

保険を考える上で重要なことは、どのようなものでしょうか。

杉原氏:

 大局的には、国の人口動態と財務状況、そして社会保障制度の3つが重要です。日本の人口は右肩下がりで上昇は見込めないし、財政も改善は難しい。具体的には「2025年問題」があります。団塊の世代が2025年頃には、後期高齢者である75歳以上に達することから、介護・医療費など社会保障費が急増します。国は社会保障制度と税の一体改革を進めており、そのゴールが2025年です。

 その一環として2018年には診療報酬と介護報酬の改定が同時に行われ、抜本的な大改革が行われると予想されています。医療・介護ともに個人負担の増額など大幅な変革が見込まれ、保険会社としては支出が増えそうなため、加入時の診査をさらに厳しくするとともに、保険料の値上げを行う可能性が高い。この期間を海外で過ごされる方には、赴任前の今こそ保険の見直しをするラストチャンスです。

こころみ様の「見守りサービス」は、海外赴任されるご家族からの利用も多いのでしょうか?

神山氏:

 国内に残された親御さんのことを心配され、私どもと契約される方もいらっしゃいます。見守りサービスは、ご家族と遠く離れて暮らす親御さんに毎週1~2回、電話をかけさせていただき、誰と夕食を食べたとか、日中はどこへ出掛けた、少し風邪気味だなど、お友達に話すような日常生活を専属の担当者がお聞きします。その内容はすべて書き起こして、ご家族にメールでお伝えしています。

 このサービスが喜ばれている理由は、良いことだけでなく、体調を崩されたなど悪い情報も含めて暮らしぶりが分かる、ということ。ご家族が親御さんに電話をしても、ご家族に心配をかけたくないので、「体調が悪い」などといったネガティブなことは、なかなか言わないのです。でも私どものような第三者には気兼ねなくお話になることが多い。たとえば、久しぶりに電話をしたら親御さんから突然、「やっと退院したよ」などと言われ、そんなこととは知らずにいたご家族が「いつ入院してたの?」と一悶着起きることもあります。そんなことがあって、私どものサービスに入会されたお客さまもおられます。

必ず取っておきたい自動車保険の中断証明

赴任前に絶対にしておきたい保険の手続きなどありますか。

杉原氏:

 自動車保険は単年契約のこともあり、海外赴任に際して「もうすぐ満期だからいいや」と放っておく方が多いようです。自動車保険は6等級から始まって、一番割引率の高い22等級まであります。何もしないで海外赴任から戻って新たに加入すると、6等級から再スタートします。ところが、赴任前に保険会社に依頼して「中断証明書」をとっておくと、海外渡航から10年、国内の場合は5年間は以前の等級が引き継げるのです。無事故無違反を長年続けている優良ドライバーには大きなメリットです。

 また、海外赴任してから保険を見直そうとしても、かなり難しい。日本の生保に加入するには、本人が日本国内で契約書に署名する、保険料の引き落とし口座が日本にある、という2つの条件をクリアする必要があります(つまり海外で日本の保険には入れません)。申し込みから契約成立までは、およそ2週間かかります。短期の一時帰国時に契約しようと思っても無理なのです。特にご注意いただきたいのは、ちょっと眠れないからといって安易に心療内科を受診しないこと。精神疾患は「特別条件」の1つになります。最低でも完治から5年間は無条件で保険に加入することはできないし、内容によっては加入を拒否されます。催眠導入剤のようなものは一般のドラッグストアでも買えますし、内科でも処方してもらえることもあります。ストレスが多い海外駐在ですが、この点は忘れないでください。

介護の基本は、親の意思確認

親御さんの介護を考える上で大切なポイントはどのようなことでしょうか。

神山氏:

 ご本人が何を望んでいるか、その意思確認だと思います。万が一のとき、意思疎通できないことも考えられます。ですから、介護状態になった際に、どういうケアをして欲しいのか、前もって知っておくことが重要です。例えば、最期まで自宅で暮らしたいのか、それとも環境の整った施設に入りたいのか、など。とはいえ、突然、こういったことを聞くのはハードルが高いのも事実。「縁起でもない」 とソッポを向かれるかもしれません。

 すべては普段からの会話の総量が多いかどうかにかかっています。お孫さんがいるなら写真を送るとか、誕生日や父の日、母の日にプレゼントをするなど定期的な交流をしておくと、お礼の電話があるでしょうから会話の糸口になります。私どものサービスも、親子のコミュニケーションのパイプを少しでも太くするためのツールの1つだと考えています。

おわりに

最後に、これから海外赴任をされる方へアドバイスをお願いします。

神山氏:

 親御さんと話す時に、決して怒らないで話を聞くことが大切です。「自転車で転んでケガをした」と聞くと、「だから自転車に乗っちゃダメと言ったでしょ」なんて、つい怒ってしまいがちなもの。こうしたことが続くと「また怒られるから」とネガティブな情報を発してくれなくなります。悪いニュースほど早く知ることが極めて重要です。親子関係は不思議なもので、親は子どもに対して弱みを見せたがらない。とくに立派な経歴をお持ちのお父様にはこの傾向があります。独居の父親には、特に注意が必要です。親子だから何でも話せて当たり前とは、決して考えないことです。海外赴任で親子の物理的な距離は遠く離れますが、離れているからこそお互いのコミュニケーションを深めて、心を近づけるよい機会にしてほしいと思います。

杉原氏:

 社会保障を取り巻く環境が大きく変わっていることを、直視してください。保険と介護に大きな影響が出る2018年のタイムリミットまで、あとわずか。保険はライフステージごとに見直すもの、という原則に照らせば、海外赴任は大きなターニングポイントです。仕事で飛躍するチャンスであると同時に、ご家族のライフプランを考える1つのきっかけになることを願っています。

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