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現地医療を受けるために知っておくべきポイント

2019.07.12

現地医療を受けるために知っておくべきポイント

海外の病院にかかることは、日本の医療の良い点や、海外の優れた医療の恩恵を受ける良い機会ともなる。しかし、海外での基本的な病院のかかり方を知らず、誤った情報をインプットされて渡航すると、様々なリスクが待ち受けている。よって、正しい情報を身につけ、適切な準備を行い、渡航する事をお勧めする。不慣れな海外での医療を受けるためには、次の3つのポイントを押さえよう。

①日本人が海外に出たときの医療の実態

②海外と日本の医療制度・文化の差異

③"世界共通語"である英語での受診と安全カルテのすすめ


日本人の海外での死亡統計

海外における主な死亡要因TOP10

順位死亡要因人数割合
第1位 傷病 406 76.17%
第2位 自殺 46 8.63%
第3位 レジャー・スポーツ事故 22 4.13%
第4位 交通事故 20 3.75%
第5位 殺人 13 2.45%
第6位 テロ 6 1.13%
第7位 作業事故 3 0.56%
第8位 自然災害 2 0.37%
第9位 戦闘・暴動・クーデター 0 0%
第10位 その他 15 2.81%
総死亡者数 533
※外務省 海外邦人援護統計2015年度版より作成

上記の表は、日本人の海外での死亡統計だ。3年ほど前のデータだが毎年500人~600人の日本人が海外で死亡しており、死因のトップは病死である(約70%)。これを保険会社の統計と突き合わせると、「脳卒中」と「心筋梗塞」がそのほとんどを占めており、マラリア、コレラ、狂犬病、チフスで死亡したケースは1件も見当たらない。また、厚生労働省のホームページの労災申請事例でもマラリア、コレラ、狂犬病、チフスで死亡ないし、重症化したケースは1例もない。東南アジアやインド、中南米への駐在において感染症対策として、予防接種は必要だが、これらの統計を見る限り、多数のワクチン接種と保険加入だけでは安心できない。では、安全対策として何をどのように準備したら良いだろうか。

海外と日本の医療の差異

日本では、病院に行って「あなたの診療はできない」と診療拒否された事はないはずだ。これは世界で唯一、日本の医師法に「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な理由がなければ、これを拒んではならない」という「応召義務」が定められているからである。しかし、米国の医療法では「医師は一般的に患者を受け入れる義務を負っておらず、その事は患者の状況の重さ、支払能力の有無など医師の拒否の理由に関わらない」と定められており、米国の医師は正当な理由の有無や何らの理由なしに、患者の診療を拒否する実質的な法的裁量権を持っている。これは、米国が特別なのではなく日本が特別であり、「言葉が違うだけで病院のかかり方は世界共通」という固定概念は捨てた方が良い。

では、この「診療拒否」を回避するにはどうしたらいいか。欧米医師の診療拒否理由の90%以上が患者からの正確な医療情報(服用中の薬、手術歴、薬剤アレルギー等)が取れない事による。特にアレルギー情報で、「何にアレルギーがある」といった断片的な情報でなく、「何年前に何を服用して、どんな症状が出て、何日で治った」といった具体的な情報を必要とし、その情報がない事が診療拒否の一番の理由なのだ。米国での医療訴訟の金額は天文学的数字になるため、そのリスクを回避したいからである。

病院情報と準備

日本人は、一般的に海外で日本語の通じる医療機関リストを用意して渡航している。風邪、腹痛、下痢、慢性疾患ならどんな医療機関でも大差はないが、「脳卒中」、「心筋梗塞」では1分でも1秒でも早くハイレベルの病院にかかることが重要だ。そのため、英語で診療を受ける事ができる医療機関への選択肢を増やしておく事が、運命を左右するカギともなる。

そのため、国際語としての英語で診療を受ける準備をしておきたい。その第一歩は、「英文の診断書」を準備しておく事だ。但し、一人一人のオーダーメイドカルテとなると費用がかかるので、自己記入方式の英文診断書である「安全カルテ」(日本旅行医学会監修)を活用する事をお勧めする。これは、成人版(黄色)、学生版(青色)、子供用(桃色)の3 種類があり、海外で受診する際の医療情報がしっかり伝わる内容となっている。備えあれば憂いなし、「いざという時に備えて」しっかり準備して渡航しよう。

心のケア

英文だが、M.Rob 女史の名著『Culture Shock - practical guide Living &Working Abroad.』 に、海外という環境変化において「"カルチャーショック"あるいは一時的に"ホームシック" になることは、人間の正常反応である」と明記されている。しかし、最近の風潮は、海外赴任や留学ではうつ病が多発するかのような根拠のない啓蒙活動(あるいは商業活動)が多々見られる。基本的には次の3 項目を海外赴任者や留学生にインフォームしておくことをすすめる。

1. ホームシックやカルチャーショックは人間の正常な精神反応だ。


2. 但し、次のチェックリストの症状が 5個以上、2週間以上続く場合は「病気」として専門医の受診をすすめる。

  • ①抑うつ気分(悲しい・イライラ)
  • ②興味・喜びの喪失(好きなことが楽しめない)
  • ③食欲の変調(食欲低下/過食)
  • ④睡眠障害(不眠/過眠)
  • ⑤精神運動の障害(強い焦燥感など)
  • ⑥疲れやすさ(だるさ・無気力)
  • ⑦無価値感
  • ⑧思考力や集中力の低下
  • ⑨自殺のことを考える

3. 中国への男性の単身赴任は、飲酒が誘因となっての自殺のリスクが高いため気をつける。


6つのワンポイントアドバイス

①「突然死予防検診」の勧め

先に述べたように日本人の海外での病死のトップが「脳卒中」「心筋梗塞」である。赴任前法定健診でもそれらのリスクファクターの有無の判定には役立つが、精度の高い突然死予防のスクリーニングにはなっていない。

②LOXインデックスを知っていますか?

企業検診や赴任前検診では、コレステロール値しか分からず、悪玉コレステロール(LDL)が高いことが脳梗塞や心筋梗塞のリスクと一般には信じられているが、それは誤りだ。酸化されたLDLが、血管の内側にたま、動脈硬化を起こすのである。この原理から、今後10年以内の脳梗塞と心筋梗塞のリスクを推定するのがLOX-インデックスという血液検査であり、1分でできる信頼性の高い検査だ。家族歴のある人、赴任中の脳梗塞や心筋梗塞が心配な人、高血圧、脂質異常、糖尿病のある人、40歳以上の人、これらのどれかひとつでも該当する人は、この検査を受けるメリットがある。この検査でリスクのある人は、「脳卒中予防ドック」や「心筋梗塞ドック」などの検査を受けておくと安心だ。これらの検査で異常がなければ、向こう3年間は安心して駐在することができる。

③「脳卒中予防ドック」

長期渡航となる勤務者で、特に渡航先の医療事情に不安のある場合、40 歳以上、脳卒中の家族歴、高血圧・肥満・脂質異常症・喫煙などの危険因子を有する人は受けるべき検査である。

④「心筋梗塞ドック」

40歳以上、心疾患の家族歴がある人、動脈硬化危険因子のある人が赴任前にドックを受ければ、冠動脈の狭窄がわかるため、発症前の治療が可能となる。

⑤歯科受診の勧め

海外赴任が決まったら、家族揃ってまず歯科受診をしよう。海外でも歯の治療はできるが、安心して受診できる良い歯医者を探すのは一苦労だ。赴任前の受診の結果、初期虫歯や歯周病が見つかったら、その治療には少し時間がかかるので早めに受診するようにしよう。又、親切なホームドクターはブラッシングなどの予防歯科指導もしっかりしてくれるので安心だ。

⑥持参する薬の注意

某自動車メーカーの米国人女性重役が、ヒザの痛み止めの薬を親から送ってもらい、逮捕されたという報道があった。この薬は、米国では、抜歯のあとやキズを縫ったあと、関節痛などで日常的に当たり前に使われているロキソニンのような薬だ。しかし、日本では、癌の末期のみに使う麻薬系の痛み止めというクラス分けになっていた。逆に日本で使用されている"ロヒプノール" という睡眠薬は、米国だとその製造・販売・使用・持込みは重罪となるので注意しよう。

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